「マーティン」ジョージ・A・ロメロの青春映画

マーティン Martin

1977年公開

監督 ジョージ・A・ロメロ

出演 ジョン・アンプラス / リンカーン・マーゼル / クリスティーナ・フォレスト

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ゾンビ映画の巨匠が作った異色吸血鬼物。この映画の後に傑作「ゾンビ」が作られます。一番脂が乗っていた時期ですね。ロメロと言えば社会派ホラーというイメージですが、これは若者の懊悩を描いた青春映画です。

主人公は吸血鬼のマーティン。生きるために人を殺さなければならないという原罪に苦しんでいる、心優しき青年です。実年齢は80代ですが、老けないので青年にしか見えません。それだけ生きてれば世慣れてそうなものですが、内面も少年のように幼いままなので、永遠に苦悩する若者という無間地獄に生きる可哀想な吸血鬼なのです。

設定も本来の吸血鬼とはかなり違います。血を吸われた人間が吸血鬼になることはない(失血死してしまいます)し、ニンニクも十字架も平気だし、陽の光を浴びても灰になりません。普通に生活してる分にはただの人間です。

牙もないので、カミソリで動脈を切ってから吸います。すごい痛そう。騒がれると困るので、まず最初に睡眠薬を注射して眠らせるなど、描写がいちいちリアルで、その辺はさすがロメロといったところです。

描写がリアルな分、吸血行為の性的なメタファーが露骨に前面に出てきます。獲物を裸にして、切なそうにキスをする姿は、自分の劣情を制御できない男の心理を代弁しています。手首を掻っ切って、吹き出した血を全身に浴びた時の嬉しそうな表情はたまらないです。

主演のジョン・アンプラスは、憂いを秘めた眼を持つなかなかの美青年ですが、本職の役者ではないようです。ロメロの次作「ゾンビ」ではスタッフとして参加しています。同居する女の子役はロメロの奥さんのクリスティーン・フォレスト。その恋人役が特殊メイクのトム・サビーニ(髭なし)。ロメロ組で固めてます。ロメロ自身も神父役で登場(これも髭なし)。演技上手いですね。

異色吸血鬼ものはシニカルなコメディになることが多いと思いますが、ロメロはこれを真正面から青春映画として作りました。それゆえに、この映画にはゾンビシリーズとはまた違った、熱烈なファンが大勢いるのです。DVD再販してくださいよ。

 

マーティン [DVD]

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