来たりて見よ「炎628」

炎628 Come and See

  • 1985年公開 ソヴィエト映画
  • 監督 エレム・クリモフ
  • 出演 アリョーシャ・クラフチェンコ / オリガ・ミローノワ

第二次大戦中のドイツ占領下にあるベラルーシで、移動虐殺部隊と呼ばれたアインザッツグルッペンの凶行を描いた戦争映画。いわゆるナチ物。戦争の悲劇を描いた映画で、これを超えるものは出てこないだろうと思われるほどの凄惨な映像にトラウマ必至です。少年時代をパルチザンとして過ごしたアレシ・アダモーヴィチが、自身の実体験を元に脚本を書いています。邦題の628とは、ベラルーシで焼かれた村の数。

ドイツに抵抗運動を続けるパルチザンに加わりたい少年フリョーラは、戦場跡からライフルを見つけ出します。そして、ライフルを持って歩いているところをドイツ軍の偵察機に見られてしまいます。皮肉なことに、それが虐殺部隊を呼び寄せてしまう、というのが大まかなストーリー。

終始フリョーラの視点で物語は進行してきます。フリョーラの顔が、恐怖や憎悪、自責の念から次第に醜く歪んでいく様子が痛ましいです。戦争の狂気に飲み込まれてしまった人間の物語としても秀逸です。

虐殺部隊が村人全員を教会の中に押し込めて火を放つ有名なシーンは、一度見たら一生忘れられなくなります。悲鳴で溢れる教会を取り囲むドイツ兵たちの楽しそうなこと。ご丁寧に道化役まで登場して場を和ませます。「ウィッカーマン」のラストシーンにも似ていますね。炎は人を興奮させるものなのかもしれない。

フリョーラはこの虐殺を生き延びます。部隊の気まぐれにより見逃されたのです。隊員たちはフリョーラの頭に銃を突きつけ記念撮影をした後、彼を殺さずに去っていきます。DVDのパッケージに使われているのはこの場面。主演のアリョーシャ・クラフチェンコの演技はただ事ではありません。本当に恐怖しているとしか思えない。迫真の演技とはこういうことを言うのでしょう。

生き延びたフリョーラは、ヒトラーの肖像画が水溜まりに落ちているのを見つけます。そして憎しみを込めてライフルで撃ちぬきます。彼がヒトラーを撃つたびに、歴史が巻き戻されていく映像が差し挟まれます。彼の怒りが頂点に達した時、母親に抱かれた赤ん坊のヒトラーの姿が映し出されます。汚れのない赤児のヒトラーと、恐怖と憎悪で醜く変貌したフリョーラの顔が交互に映し出されます。この時、彼は撃つのをやめて泣き出します。誰もが同じ人間なのに、なぜ世界はこんなことになってしまうのか、という根源的な疑問に突き当たったのでしょう。でもそれは、彼に解決できるようなものではありません。モーツァルトのレクイエムが流れる中、彼は銃を取ってパルチザンの行進の列の中に消えていくのでした。

ハリウッド的なド派手な演出とはまた別の、真実味のある凄みに溢れた映画です。ソ連映画を観る時のお楽しみの一つ、実弾撃ちまくりな場面はやはり迫力があります。

監督のエレム・クリモフは、この傑作を世に送り出した後、映画を作ることができなくなってしまいました。

映画を作る情熱がなくなってしまった。自分にできることは全て、やりつくしてしまった。

炎628 [DVD]

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