フリークス哀歌「バットマン リターンズ」

バットマン リターンズ Batman Returns

ティム・バートンの「バットマン」二作目。登場する怪人はペンギンとキャットウーマン。自分を醜く変貌させた社会に復讐を企む彼らに、バットマンが立ちはだかります。

実は、アメコミヒーローものはあんまり趣味じゃないんですが、これだけは特別に大好きな作品です。それは、主役が悪役だから。ティム・バートンのフリークス愛が全開で、社会から拒絶され打ち捨てられた彼らへの愛情に溢れた哀しい作品です。

不気味だけれど、どこか可愛らしい。クリスマスの装飾に彩られたゴッサムシティの街並みは、地獄の遊園地のようです。バートンらしい美意識が全編に漲っています。

奇形に生まれたオズワルド・コブルポッドは、両親に捨てられて川に流されてしまいます。そしてペンギンに拾われて育てられ、怪人「ペンギン」となります。
本来なら、この時点で復讐のお膳立てが出来上がっているのですが、バートンはそうはしませんでした。ペンギンは、子供達を誘拐して自分と同じ目に合わせるという計画を持ってゴッサムシティに現れるのですが、人として認められたいという承認欲求が満たされると、あっさり計画を捨ててしまいます。

ペンギンは、配下のサーカス団を使ってテロ事件を起こし、街の実業家シュレックを誘拐します。そして「自分の出自を知りたい。両親に会いたい」と頼み込みます。本当の目的は、街の全員の住民票を調べることなのですが、この言葉自体は嘘ではない所がミソです。
メディアがペンギンの不幸な生い立ちに目をつけ、彼を人気者に仕立て上げていきます。彼は思いがけず世の中に受け入れられます。そして、彼は両親の墓の前で人間オズワルドとして生きることを宣言するのです。

市政を思い通りに操りたいシュレックは、オズワルドの人気を利用します。対立する市長を追い落とし、単純なオズワルドを市長にしようとします。
もうオズワルドは有頂天です。利用されていることなんて気づきもしませんから、本気で世のために役立とうとします。「地球温暖化を解消して、氷の世界に変える」なんて高邁な理想を語ります。なんて可愛いオズワルド。

しかしそうは上手くいきません。疑り深い蝙蝠おじさんに裏を探られます。まあ、裏があるから仕方がないんですが。
バットマンに全てを台無しにされ、再び闇の世界に戻ったオズワルドは、この時初めて怪人ペンギンとして完成します。社会への復讐に燃える、純粋な悪役となります。でも何をやっても上手くいかないんです。全部邪魔が入ります。ただひたすらに哀れな悪役として描かれるのが、可哀想で可哀想で……。
ペンギンと共闘してたはずのキャットウーマンなんてバットマンに惚れちゃうし、「あんたなんてひっ掻くのもイヤ」と冷たいお言葉。酷いよキャットウーマン

配下のサーカス団にも逃げられ、ペンギンは孤立します。身一つでバットマンと対決するのですが、財力に物を言わせてやりたい放題のバットマンに勝てるはずがありません。
「俺にはまだ傘がある!」と言って、愛用の傘をブンブン振り回すペンギンの姿は涙なしには見られません。しかも、傘にまで裏切られるというオチがつきます。もうなんと言っていいのやら。

そんなペンギンにも、最後にはささやかな救いがあります。それは、神の視点からペンギンを見つめ続けてきたティム・バートンの愛です。社会から疎まれて除け者にされ、心まで歪んでしまった者に対する限りない愛情が注がれます。ペンギンに肩入れして見ていた観客は、このとき救われます。

決して一般受けする題材ではないですが、好きな人にはたまらなく愛しい、そんな映画です。

 

バットマン リターンズ(初回生産限定スペシャル・パッケージ) [Blu-ray]

バットマン リターンズ(初回生産限定スペシャル・パッケージ) [Blu-ray]

 
バットマン リターンズ(初回生産限定スペシャル・パッケージ) [DVD]

バットマン リターンズ(初回生産限定スペシャル・パッケージ) [DVD]