セルジュ・ゲンスブールの遺作「スタン・ザ・フラッシャー」
スタン・ザ・フラッシャー Stan the Flasher
- 1990年公開 フランス映画
- 監督 セルジュ・ゲンスブール
- 出演 クロード・ベリ / エロディ・ブシェーズ
タイトルを直訳すると露出狂スタン。邦題には「露出狂とロリータ」なんて身も蓋もない副題が付いておりましたが、実際その通りの内容でございます。
英語の家庭教師をして生活している中年男スタンのお気に入りはナターシャ。妻との関係はすっかり冷え切っていて、唯一の楽しみがナターシャに会う事。他人に対する態度がぞんざいなスタンだが、彼女に教える時だけは嬉しそう。
しかしスタンは我慢できずナターシャの胸に触れてしまい、それを知った彼女の父親にボコボコにされた挙句、通報されて刑務所に入れられてしまう……。
フレンチポップの立役者であり異端児、セルジュ・ゲンスブールの監督四作目にして遺作。入退院を繰り返す中、死の前年に撮られた遺言のような映画です。
実の娘シャルロット・ゲンスブールと共演した前作「シャルロット・フォーエバー」は近親相姦的な親子愛の物語でした。「なまいきシャルロット」で彼女のファンになって可愛らしい映画を期待した観客は、見たくもないセルジュのゲロや放尿を目の当たりにする羽目になるという嫌がらせのような映画でした。
そういう誰も見たがらない自己の醜い部分をナルシスティックに描くのがセルジュのスタイルなのですが、それをこの映画では「露出狂」として表現しているわけです。
スタンは本当に最低な男です。興味のない人間には冷たく、女に対してはセクハラ、そして夢想するのは制服姿の女生徒たちの前での露出行為。裸の上にコートだけまとって、女の前でバッと広げるあれです。セルジュの中の醜い部分を抽出してできているようなキャラクターです。
普段は眉間にしわを寄せインテリ面しているスタンですが、露出をする時のなんとも楽しそうな姿が最高です。コートを鳥のように羽ばたかせ、スター気分でポーズを決めます。そして満面の笑顔。この上なく滑稽で醜悪だけれど、まるで子供のように無邪気です。スタンは露出をする時だけ解放感を味わえるのです。
ナターシャ役はエロディ・ブシェーズ。大きな瞳と大きな口、そしてシャープな顔立ち。セルジュのかつてのパートナー、ジェーン・バーキンに似ていますね。汚れを拒絶する鋭い眼光は、アンタッチャブルなロリータとして十分な説得力があります。
美しいナターシャと醜いスタン、少女のナターシャと中年の妻オーロール。この対比が物悲しく描かれます。
露出狂の心情告白のような映画でありながら、男と女のすれ違いの話にもなっています。
ナターシャはスタンの写真を持ち歩いているし、妻のオーロールはスタンに寄り添い続けます。彼女たちはスタンに好意を寄せているのですが、彼はそのことには気づきません。欲望が行動原理のスタンは、セクハラ以外のコミュニケーション手段を持たないため、彼女たちを失望させるばかりです。
本棚に飾られた若き日の妻の写真が度々大写しになりますが、スタンは一瞥もくれません。愛し合っていた頃に飾られたものなのでしょうが、すでに欲望の対象ではなくなっている妻には何の興味もないのです。
女は男の背景に惚れ、男は女の肉体に惚れる。そのズレが生む悲劇を自嘲的に描いた映画でもあるわけです。
残念なことに日本はおろか英語圏でもDVDが出ていないのでフランス版を購入しました。英語字幕などないのでセリフは全くわかりません。なので、もしかすると内容の理解に重大な過誤があるかも……。