前田くんと沢島さん「桐島、部活やめるってよ」

桐島、部活やめるってよ

朝井リョウの同名小説の映画化。話題作なのは知ってましたが今更鑑賞しました。

バレー部のリーダー、桐島の退部が巻き起こす騒動を巡る群像劇。校内の人間関係に汲々とする生徒たちの姿が描かれます。
高校生の青春物語にも見えますが、舞台を大人の世界に移し替えても通用する、普遍性のある物語であると思います。

どこを切り取っても面白い映画ですが、一番好きなのは映画部の前田くんと、吹奏楽部の沢島さんの対立です。
二人は合わせ鏡のようによく似ています。誰かに片思いしていて、そして告白することなく失恋する。その失意のエネルギーを芸術に昇華していくところも同じです。
そして、二人は部活動の場所取りを巡って、二度対立します。二人の接触が描かれるのはこれだけですが、たったこれだけのコミュニケーションがもたらす感動は、人間関係に振り回される生徒たちの空疎な会話からは、決して生まれないものです。

吹奏楽部の沢島さんは、思いを寄せている宏樹に見てもらいたくて、いつも彼の視界に入る場所で練習しているのですが、その場所を巡って映画撮影中の前田くんと対立します。

二度目の対決において、前田くんが沢島さんに詰め寄ります。僕らはどうしてもこの場所が必要なんだから譲ってくれ、譲れないなら理由を言ってくれ、と厳しい口調で問いただします。
沢島さんは答えられません。男絡みの問題だなんて言えるわけがありません。私は部長だからしっかりしなきゃいけないんだ、と意味不明の返事をします。沢島さんは個人的な葛藤を言葉にしているのですが、前田くんには何のことだかわかりません。

ちゃんと言葉で説明しろと迫った前田くんは、支離滅裂な沢島さんの様子を見て、何かを察します。彼女が何か強い思いを抱えてこの場所にいること、それは自分が抱いている思いと似たものであることに気づきます。言葉ではなく、感情を受け取ったのです。

そして、前田くんは沢島さんに場所を譲ります。

この時、いつも前田くんと一緒にいる武文は抗議しません。
武文は前田くんが妥協しそうになると叱責して背中を押す人物です。彼自身は何も行動せず、ただ文句を言っているだけですが、それは彼が前田くんの心の声を具象化したキャラクターだからです。前田くんの内面の葛藤が、武文とのやり取りを通してわかりやすく表現されているわけです。

武文が抗議しないということは、これは妥協ではないということです。沢島さんの思いを受け取って、自分が取るべき最適の選択として、場所を譲ったのです。

本当の人間関係ってこういうことですよね。
相手の感情を受け取らなければ、他人のことなんてわかんないですよ。

 

他の登場人物も、自分自身の思いを抱え生き生きと描かれていて、いろんなカップリングが楽しめる映画でした。これは関係性萌えってやつなのかな。

桐島、部活やめるってよ (本編BD+特典DVD 2枚組) [Blu-ray]

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