ぼくの伯父さんの休暇
ぼくの伯父さんの休暇 Les Vacances de Monsieur Hulot
1952年公開 フランス映画
監督・主演 ジャック・タチ
フランスの喜劇王、ジャック・タチのユロ氏シリーズの第1作です。日本では2作目の「ぼくの伯父さん(Mon Oncle)」が先に公開されたため邦題がこうなりましたが、原題は「ユロ氏の休暇」です。
"海辺のリゾートにやってきたユロ氏が騒動を巻き起こす"というコメディですが、ストーリーと言えるものは一切なく、他愛もないいたずらやクスリと笑えるジョークを散りばめた環境映像のような作品です。セリフがほんどんどなく、身振り手振りやアクションだけで魅せていくやり方は、まるでサイレント映画です。それもそのはずで、ジャック・タチが最も尊敬する喜劇人はバスター・キートン。キートンといえば超絶アクロバットが有名ですが、タチはアクロバットこそしないものの、毒や政治性を排したイノセントな笑いや、周囲がどんなに笑おうと本人はあくまで無口で無表情、といったキートンの哲学は、タチに正当に受け継がれたのでした。
何と言っても、ユロ氏のキャラクターが素晴らしいです。誰よりも背が高く、紳士的な穏やかな風貌なのに、中身はまるで子供のように無邪気で無軌道で、ただひたすらに混乱を巻き起こしていく。大人たちには煙たがられるが、子供たちには大人気。観返すたびに、僕もこんな人間になりたかったなあとつくづく思います。生きていくのは大変そうですが……。セリフも、ホテルにチェックインした時に「ユロ」と名前を告げた時だけ。とても粋だと思います。
お気に入りのキャラクターは、アメリカから来た老紳士です。作中でユロ氏と接触が全くなく、散歩をしながらユロ氏を遠くから眺めているだけの目立たない存在なのですが、バカンスが終わって宿泊客たちが次々と帰っていく中、寂しそうにうなだれているユロ氏の元に笑顔で近づいてきて「楽しかったよ」と言い残して去っていく。ユロ氏は狐につままれたような顔で見送るのですが、これもとても粋なシーンですね。というか、フランスだからエスプリと言うのかな。