「スター・トレック」映画全12本一気観してみた

スター・ウォーズ/フォースの覚醒」が公開間近ですが、リブート版「スター・トレック」で大成功したJ・J・エイブラムスが監督なので、期待が高まりますね。
予習を兼ねて「スター・トレック」を観てみようと思ったのですが、なにしろこのシリーズを一本も観たことがなかったもので、どうせならと思って全12作を通して観てみました。

TVシリーズは「ヴォイジャー」を時々観ていただけで、覚えてるのはセブン・オブ・ナインがエロかったことくらいという、スタートレック弱者です。なので白紙同然です。50年続いているシリーズなので、全部合わせれば700話以上もありますから、TV版を観るのは諦めました。お手上げ。
映画も「イントゥ・ダークネス」の成功で今後も作られ続けるのでしょうから、今のうちに観ておかないと辛くなりそうです。

スター・ウォーズ」や「未知との遭遇」の成功で到来したSF映画ブームに乗っかる形で、TVドラマのスター・トレックもスクリーンに進出します。
1979年公開の映画一作目から順に観てみると、本来TV向けの作品をどうにかして映画として面白くしようと、四苦八苦してるのが感じられます。
スター・トレックの面白さって、個性的な登場人物たちの人間ドラマと、異星人との交流がもたらす文化相対主義にあるんじゃないかと思うのですが、それは内省的で非常に地味であり、当時SF映画に期待されていた派手なビジュアルやアクションとは別のものです。映画的な表現をいかにして取り入れるか、というのが課題だったよう見えます。

しかし、スター・トレックには映画的なドキドキ感やサスペンスを演出する上で、重大な障害があります。それは、未来の超科学による、なんでもありな設定がてんこ盛りだってことです。どんなにピンチに陥ったって「転送すれば逃げられるじゃん」となってしまいますし、誰かが死んだって「どうせ生き返るんでしょ」と思えてしまって白けてしまいます。
面白くするには、ドラマの厚みを増やすしかありませんが、それだけでは売れない。スター・トレックのファン以外の人たちにも観てもらわなければ、映画としては失敗です。

それでも、いろいろ試行錯誤しながら12本も作られたのは、スター・トレックがアメリカ人のDNAに刻み込まれた大切な作品だからでしょう。

映画版スター・トレックは、制作者たちの悪戦苦闘の歴史です。

なんだかんだ言っても全12本楽しく観れました。退屈なものは一つもなかったです。全部解説するのはめんどくさいので、気になったものだけピックアップします。

 

スタートレック Star Trek: The Motion Picture

スター・トレック: The Motion Picture (字幕版)

スター・トレック: The Motion Picture (字幕版)

 

1979年公開の第1作。監督はロバート・ワイズです。「ウエスト・サイド物語」「サウンド・オブ・ミュージック」でアカデミー賞を取っている名監督であり、SF、ホラー、戦争映画となんでもござれの職人監督です。いい映画を撮ろうという製作陣の並々ならぬ決意がうかがえます。

ワイズが目指したのは「2001年宇宙の旅」でした。エンタープライズ号の勇姿をゆったりのんびりと描写しています。「スター・ウォーズ」後の作品としてそれはどうなのと思いましたが、興行的には良かったようなので、それなりのインパクトもって迎え入れられたのでしょう。

すでに艦長職を離れて地上勤務になっているカークが、地位を利用して現艦長デッカーからエンタープライズ号を奪い取り、二人の間に確執が生まれるのですが、これはワイズ自身の映画「深く静かに潜行せよ」の焼き直しですね。次第に信頼が芽生えていくところなんかも、そのまんまです。

謎の敵ヴィジャーの正体には、ちょっとうるっときてしましました。ヴィジャーが、人間を炭素ユニットと呼び、機械ゆえに人間の価値がわからないという設定は、SFらしくていいなと思いました。

今後の映画でも頻出する事になる、対立と和解がテーマになっています。
しかし、正直言ってコスチュームは、めまいがするほどダサい。

 

スター・トレックII カーンの逆襲 Star Trek II: The Wrath of Khan

スター・トレック2/カーンの逆襲 (字幕版)

スター・トレック2/カーンの逆襲 (字幕版)

 

1982年公開。格調高い前作と打って変わって楽しい2作目。魅力的な悪役、優生人類カーンが登場します。エンターテインメント性を前面に打ち出して高評価を得ました。やっぱり、悪い奴が出てきた方が映画としては面白くなるのね。レーダーの効かない戦艦同士の闘いなど見所は多いです。映画版の指標の一つになった作品です。

12作目の「イントゥ・ダークネス」にも関わってくるので、観ておくと理解が深まります。コバヤシマル・シナリオやカーク船長の元恋人キャロル・マーカスは覚えておきましょう。ここ試験に出ます。

最後スポックが死ぬのですが、次作のタイトルが「ミスター・スポックを探せ!」だというのを知ってると白けるばかり。感動を演出するために重要なキャラクターを殺すのはアリですが、生き返らすのはナシにしましょうよ。

 

スター・トレックIV 故郷への長い道 Star Trek IV: The Voyage Home

スター・トレック4/ 故郷への長い道 (字幕版)
 

 3を飛ばして4作目。1986年公開。監督はスポック役のレナード・ニモイ。これまたガラリと雰囲気が変わってコメディタッチの作品です。
ターミネーター」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のヒットにあやかったのかどうかは知りませんが、時代はタイムトラベル物だというわけで、エンタープライズの一行が1985年のサンフランシスコへやってきます。骨休め的なドタバタ珍道中物で、これが大受けして公開時点では過去最高のヒット作になりました。

捕鯨問題という日本人にはセンシティブな問題を扱っていますが、そこは目をつぶりましょう。

 

スター・トレックV 新たなる未知へ Star Trek V: The Final Frontier

スター・トレック5/新たなる未知へ (字幕版)
 

 ラジー賞を総ナメした問題の5作目。1989年公開。レナート・ニモイが監督できるなら今度は俺だと、カーク船長役のウィリアム・シャトナーが名乗りをあげました。そして大火傷。

ラジー賞も納得のデタラメな珍品。神との邂逅という壮大なテーマをぶち上げながら、オチが「なんじゃそりゃ」なショボさ。執拗にエンタープライズ号を付け狙うクリンゴンの艦長がめちゃくちゃ強そうでカッコイイんですが、やっと対決かと思ったら、上官に怒られて和解。まさに、大山鳴動して鼠一匹
緊迫した場面で、スコットが柱に頭をぶつけて気絶するという謎のギャグ。そして、OPからEDまで終始イチャイチャし続ける、カークとスポックとマッコイの男三人。

人間ドラマ、深遠なテーマ、強大な敵、軽妙なギャグ、スター・トレックの魅力をこれでもかと詰め込んでいながら、全てが浅くていい加減。

ここまで演出がポンコツだと、逆に愛らしいです。大好きかもしれない。

 

スター・トレックX ネメシス Star Trek Nemesis

 ずっと飛んで10作目。2002年公開。7作目から新スター・トレックのメンツに変わっています。直情径行型のカークに代わって、落ち着いた大人の魅力を持ったピカードが艦長です。
日本の劇場公開時のタイトルは「ネメシス/S.T.X」でした。日本ではスター・トレックが売れないので、名前を隠した方がいいだろうという判断が働いたのだと思います。

CG技術も発達し、今観ても迫力満点。今回の敵シンゾンは、カーンに匹敵する悪役を作り上げようという制作者の熱意が感じられる複雑なキャラクター。心理戦や艦隊戦、公人であるピカードと私人としてのシンゾンの対立、自己犠牲、個性とは何かというテーマ。アクションと重厚なドラマがうまく噛み合った、なかなか見ごたえのある作品です。個人的には最高傑作。

ですが、興行的には大コケしました。暗すぎましたね。

多分、制作者は自信満々で送り出したのだろうと思いますが、この失敗で万策尽きたのでしょう。次作のJ・J・エイブラムスのリブート版は、7年後とかなり間隔が開きます。そして、おっさんたちの渋い人間ドラマとしてのスター・トレックは終焉しました。カークやスポックたちの青年時代に時間を戻し、軽妙洒脱な新生スター・トレックとして生まれ変わることになります。

 

 スター・トレック イントゥ・ダークネス Star Trek Into Darkness

 12作目。J・J・エイブラムスの新生スター・トレックとしては2作目。2013年公開。
カークたちの青年時代を描いていますが、平行世界設定にすることで過去作との矛盾を意識しなくて済むという、なかなかうまい作りになっています。
顔見世興行の前作も大ヒットしましたが、今作で満を持して登場した若きカーンにベネディクト・カンバーバッチを配して、過去最高の収益をあげました。

クライマックスも「カーンの逆襲」の鏡写しのようになっています。テロ問題など現実の社会情勢も絡めて、そつない作り。

今後はこの路線で行くのかもしれませんが、たまにはヘンテコな映画も出してくれると嬉しいです。制作費がうなぎ上りに増えてるから難しいかな。

ちなみに日本ではスター・トレックは売れないので、この映画も全くヒットしませんでした。アメコミとスター・トレックにとって日本は鬼門ですね。