田舎は怖い「ウィッカーマン」
ウィッカーマン The Wicker Man
1973年公開 イギリス映画
監督 ロビン・ハーディ
出演 エドワード・ウッドウォード / クリストファー・リー
山奥の村や絶海の孤島に前近代的な独自の風習がある、という物語は人の好奇心を掻き立てます。都市化が進み、法やモラルが洗練されていく中で、心の中に閉じ込められてしまった野性や本能が敏感に反応するからでしょう。日本では「楢山節考」がそれにあたるでしょうか。アメリカ南部を舞台にしたホラー映画が独特の魅力を持っている理由も、そういうことなのだと思います。ただ怖いだけでなく、魅力的なのです。
この映画の舞台はスコットランドにある孤島です。行方不明になった少女を探すため、本土の警察官ハウイーがサマーアイル島にやってくるところから物語が始まります。厳格なキリスト教徒であるハウイーは、この島でキリスト教が信仰されていないことに驚愕します。豊穣の神を崇める自然崇拝の島だったのです。豊作と生殖を同一視する宗教で、夜這いや乱交が当たり前なのです。住人たちが性的に奔放であることが許せないハウイーは、苛立ちを隠さずに行く先々で説教をするわけですが、この辺はあまり感情移入できないところですね。どっちかというと、ハウイーの方が古臭いモラルに縛られてるように見えてしまいます。というより、ちょっとこの島に行きたいとか思っちゃいますね。
事件の捜査を進めていくうちに、どうやらこの島では生贄の儀式が今も行われているらしいということを突き止めるわけですが、その過程で様々な珍奇な風習に出くわしていくところも見せ場になってます。
圧倒的なのはウィッカーマンの造形です。生贄を閉じ込めて焼き殺すための巨大な人形ですが、飾り気が無くシンプルで、とても恐ろしい。顔がないのがいいですね。無機的な殺人マシーンです。この作品がカルト映画として人気があるのも、よくわかります。
生贄の断末魔の悲鳴と、それを楽しげに見つめる住人たちの明るい歌声を対比させる見せ方も衝撃的です。人間とは何か、なんてことを思わず考えさせられてしまう名シーンですね。
ニコラス・ケイジのリメイク版はあまりにも評判が悪いので観てないです。