無賃乗車のプロ「北国の帝王」

北国の帝王 Emperor of the North Pole

無賃乗車に命をかける男と、無賃乗車犯を生かして返さぬ冷酷無比な鬼車掌の対決を描いた大傑作。設定の馬鹿馬鹿しさにも関わらず、プロフェッショナルな男同士の本気の闘いが熱い。走る列車の上で繰り広げられるアクションは、映画の醍醐味そのものだ。男の闘いを描き続けたロバート・アルドリッチの骨太な演出が冴え渡る。

時代は1933年、大不況のアメリカ。失業者が国中に溢れた結果、アメリカ各地を転々としながら職を求める移動労働者が誕生した。彼らはホーボーと呼ばれ、独自の文化圏を形成する。駅の側に溜まり場を作り、情報交換をしながら仕事のありそうな地へと移動していくのだ。当然、彼らの移動手段は鉄道の無賃乗車である。

しかしそういった時代背景は、お膳立てに過ぎない。ホーボーたちが仕事を探している様子なんて全く描かれることはない。この映画の軸は、あくまでも無賃乗車をめぐる男と男の命がけの闘争である。

ホーボーたちの間で噂される二人の男がいた。一人はAナンバーワンという凄腕無賃乗車犯。華麗なテクニックで無賃乗車を繰り返し、「北国の帝王」と呼ばれホーボーたちの尊敬を集めていた。もう一人は19号列車の車掌シャック。19号列車に無賃乗車したものは、ことごとく残酷な方法で殺されていた。シャックはその容赦のないやり口で、ホーボーたちから恐れられていた。

Aナンバーワン役はリー・マーヴィン。いぶし銀のアクション俳優で、こういう飄々とした役は珍しいかも。シャック役はアーネスト・ボーグナイン。西部劇や戦争映画の常連ですが、代表作はこの映画と言っていいでしょう。ギョロリとした目で鬼瓦のような恐ろしい顔だけれど、どこかコミカルで愛嬌がある。シャック役はこの人しか考えられない。この二人の対決を軸にストーリーが進行していくのだ。

シャックの殺し方がエグい。列車の連結部にしがみついているホーボーを見つけると、ニタニタ笑いながらハンマーで殴って線路に落とす。落とされたホーボーは車輪に轢かれて真っ二つ。この映画を初めて観たのが小学生の頃だったのでトラウマものでしたよ。

まんまと19号列車に乗車することに成功するAナンバーワンだが、予想外の邪魔が入って失敗してしまう。そこでリベンジを誓った彼はある計画を実行する。

その計画とは、予告無賃乗車である。

駅の給水塔に犯行予告を書きつけ、シャックに挑戦状を叩きつける。二人の男の真っ向勝負の対決が盛り上がっていくわけだ。熱すぎる。

この映画にはもう一つ重要な要素があって、プロフェッショナルと未熟者の対立が描かれる。「北国の帝王」の座を狙ってAナンバーワンに挑戦してくる若造のホーボーは、名誉欲だけはあるが向上心に乏しく、他人の足を引っ張ることだけしか考えていない。技術だけでなく精神的にも未熟者として描かれる。また、シャックの部下たちも、職務に忠実な彼を理解することなく、厄介な上司として煙たがっている。プロフェッショナルは常に孤独なものなのだ。

だからこそ最後の二人の闘いは、唯一理解し合える真の男同士の闘いとして、この上なく美しいのである。やってることは、ただの無賃乗車だけど。

子供の頃にテレビでこの映画を観て、強烈な印象を持っていたのだけれど、タイトルも出演者も覚えていなくてずっと気にかかってたのですが、ネットであれこれ調べてようやっと見つけた時には狂喜乱舞しました。

アクション映画が好きなら外せない大傑作です。